Signature Life

雑記帳

人がクビになるとき(1) - what is your concern for joining us?

人がクビになるとき、理由は以下の4つのいずれかである。

1. コンプライアンス違反で一発退場
2. 上司に嫌われてクビ
3. 無能すぎてクビ
4. 有能なせいでクビ


これらに加えて、デスク閉鎖(部署撤退)というのをこのリストに載せることも出来るけれど、これは厳密にはlayoff といって、いわば不可抗力の解雇であり解雇理由が本人にあるわけではないため、ここにはあえて含めない。
外資2社に勤務して数年が経った頃のぼくは、既に上記リストの 1,2,3 は全て社内に見てきたつもりだった。ところが4を初めて見たときは衝撃的だった。そんなことがこの世にあって良いものなのかと。しかも、それでクビになったのが自分の上司だった。

 

2014年の夏にぼくはMelvin Lewと出会った。

Melvinはアメリカ系の金融サービス会社でアジア太平洋地域の営業チームのヘッドを務めていた優秀なセールズマンだった。営業担当で入社後6-7年に渡りトップセールズとしての成績を叩き出し、アジア太平洋を統括する地位に就いて4年目。


ぼくが彼に初めて出会ったのは、採用面接のテレビ会議。その会社の人事部に所属するリクルーターからお誘いを受けて面接に臨んだものの、正直なところ当時のぼくは転職に乗り気ではなかった。
Melvin とは三次面接で初めて話をした。それまで既に二回も面接を受けておきながら「乗り気ではない」というのも失礼な話だが「でも話を聞くだけなら無料だから」と足を運んだようなもの。


その会社は、東京丸の内にある超高層ビルの最上階をオフィスとしてワンフロア借り切っていた。

受付は少し暗めの暖色照明のもと、分厚い絨毯が敷かれており、高級感のあるソファーがポツンと置かれた空間。それまでにあまり見たことのない環境だった。正面の壁には会社のロゴと、金融商品取引業社の登録票が掲げられていた。それだけしかなく、シンプルな空間だった。

 

廊下を抜けて、床から天井まであるような背が高くて少し重い木のドアを開けつつ会議室に通されると、そこは明るかった。
壁の二面は床から天井までガラスで出来ており、丸の内の街並みが一望できる。そのほかの壁は明るい色の木で出来ており、暖色の照明が心地よい。
15脚ほどのオフィスチェアが、一枚の木の板でできた巨大なテーブルの周りに整然と並んでいる。巨大な額に収められた、読めない極太の毛筆による書体が正面の壁に掲げられていて、その隣の壁にはテレビがあった。そこにMelvinが映し出され、ぼくは彼と向かいあった。


「君が転職に踏み切れない理由を教えてくれ」

実際の顔の3倍ぐらいのサイズに映っているMelvinが、ぼくにそう訊いた。


当時のぼくは新卒で3年務めた日本企業から転職したのち、ヨーロッパの会社に勤務して2年が経過した頃だった。

転職に乗り気でない理由は、自分としては明確だった。

ヨーロッパ企業での職務内容はチャレンジングで日々の学びが多く、上司には恵まれ、それでいてちょうど自分のスタイルで仕事が回せるようになった時期だった。これがひとつ目の理由。

それに加えて2年で転職するのは、あまりにも早すぎるというのが二つ目の理由。  

この二つをぼくは Melvin に伝えた。


「教えてくれてありがとう。正直で真摯な理由だと思う。仮に君が40代だったなら、 ぼくは君に同意したかもしれない。君はまだ34歳(当時)。日々ビジネスを学んでいく時期にあって現職では2年を過ごした。私は2年というのは、次の舞台にチャレンジする時期として決して早すぎるとは思わない。確かに君の言う通り、まだ現職で学べることの全てを学んだとは言えないのかもしれない。だけど2年間を真剣に働いてきたのであれば、少なくとも日々の業務における中心的な知識とでも言うべき80%は、もう既に見てきたのではないかな?本当に現職から100%を学ぼうとするなら、少なくともこの先10年はかかるよ。学習カーブというのはそういうものだから。現職にあと10年留まって、ひたすら残りの20%を追求していくのか。それとも現職で学んだ80%を活かしつつ、新しい環境でまた速い成長を遂げるのか。10年経てば君も40代半ばになっている。その時に、どちらの自分が活躍しているのか、考えてくれれば結論は難しいことではない」

 

これが結果的に自分にとっての「口説き文句」となり、そこからさらに2ヶ月迷った挙句、ぼくはオファーレターにサインをした。


(続く)

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